1.味を感じるしくみ
口に入れられた食べ物はまず唾液と混ざって水溶液になり、舌の上にある乳頭に取り込まれる。乳頭には、有郭乳頭・葉状乳頭・糸状乳頭・茸状乳頭の4種類があり、そのくぼみの表面に花の蕾のような形をした味蕾が点在している。味蕾の中には神経とつながった味細胞があり、そこで味が判別される。
味の判別は「鍵と鍵穴」の関係で説明できる。食べ物の成分が鍵、味蕾が鍵穴であり、鍵穴が埋まるとスイッチが入り、味が電気信号として脳に伝わる。
なお、舌の場所によって味を感じるという「味覚地図」は誤りである。
味蕾の数の比較 ナマズ:200,000個(体中に存在) 牛:24,000個 ウサギ:17,000個 人(乳幼児):12,000個 人(成人):6,000~9,000個(舌に7割、上あごに3割、喉にも存在)
ニワトリ:20個 ヘビ:2~3個(触覚で食べ物を判断) ハエ・蝶:手に味蕾があり、交尾相手の判別にも使う
2.動物にとっての味覚
草食獣は消化しにくい植物を食べられるよう体の仕組みを変化させてきた。コアラは毒性のあるユーカリを主食とすることで競争を避けて生き延びてきたが、ユーカリは低カロリーのため1日20時間眠る必要がある。
肉食獣は草食獣を食べるが、まず植物の栄養が詰まった小腸、次にビタミン豊富な肝臓・膵臓、最後に筋肉という順番で食べる。 動物にとって味覚とは「生きるために役立つものがおいしい」という仕組みである。
3.人にとっての味覚
人が食べ物のおいしさを判断するには、 基本味(甘味・酸味・塩味・苦味・うま味)+辛味・渋味・えぐ味 に加え、 香り(嗅覚)・食感(触覚)・温度・色や形(視覚)・咀嚼音(聴覚) が組み合わさって「食味」が形成される。さらに、雰囲気・文化・健康状態などが影響する。
Q1. 好き嫌いのメカニズム ① 第一印象(6~7割がここで決まる) ② 雰囲気(食事中の経験) ③ 経験(食中毒などによる味覚嫌悪学習)
→①+③=食わず嫌い
Q2. ピーマン嫌いが多い理由 豊富に含まれる苦味成分による。
Q3. 酢・ビール・お茶が大人になるとおいしく感じる理由 「体に良い」という情報が加わるため。 人の味覚は9~12歳で基礎ができる。この時期の食生活が乱れると奇食に走る可能性もある。子供は親の表情を見て食べ物を判断するため、家庭の食習慣は味覚形成に大きく影響する。 人にとって味覚とは「経験と学習」であり、好き嫌いを直すには調理法の工夫と本人の意識が必要である。
4.人にとってのおいしさ
① 生理的欲求 欠乏した栄養素をおいしいと感じる。
② 文化的おいしさ 幼い頃から慣れ親しんだ味はおいしく感じる。
③ 情報によるおいしさ 安全・健康・ブランドなどの情報が味覚に影響する。
④ 薬理学的おいしさ 脂・香辛料・だしなどは脳内で快感物質を放出させる。
5.味覚障害
味細胞は20~30日で生まれ変わるが、その際に亜鉛が必要である。加工食品中心の食生活で亜鉛が不足し、味覚障害が増えている。 日本食には亜鉛を多く含む食材が多く、現代こそ日本食の価値を見直す必要がある。
6.味覚修飾物質・味覚修飾植物
味覚修飾物質は味覚器に作用して一時的に味覚を変化させる物質で、 甘味阻害・甘味誘導・苦味抑制の3種類がある。 味覚修飾植物はこれらの物質を含む植物で、葉や実を口に入れると味覚が変化する。
7.味覚修飾植物の紹介
ミラクルフルーツ、クルクリゴ、ストロジン、ギムネマ、ナツメ、ケンポナシが存在する。
8.味覚修飾植物の応用 味覚修飾植物はダイエット補助だけでなく、糖尿病患者への応用が期待されている。人工甘味料の副作用が問題となる中、ミラクリンやクルクリンは新しい甘味剤として注目されている。
ただし安全性や大量生産の課題があり、さらなる研究が必要である。 現在、ミラクリンのタブレット化には成功している。
9.今回の講義を受けて
今回、味覚修飾植物を実際に食べるという貴重な体験をし、強い感動を覚えた。普段当たり前に行っている「味わう」という行為の仕組みを知り、さらに一時的に味覚を変えられることに驚いた。医療への応用可能性を知り、ますます興味が深まった。
今後、脳で感じる感覚と食品成分の差異を利用し、さまざまな患者さんの病状改善に役立てたい。また、歯科疾患の改善にもつながる可能性があると感じ、この分野をさらに学んでいきたいと思った。